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わにの日々-海が好き!編

NY、DC、テキサス、コロラドを経て、大都会ロサンゼルスから、その郊外の海辺の街、レドンドビーチに移り住んだ、ぐうたら中年主婦・わにのトホホな日々

わたしを離さないで --- 映画と原作の感想

 日本生まれの英国人作家、カズオ・イシグロ氏原作、「Never Let Me Go」の映画を観てきました。今週いっぱい、NYCとLAの各2劇場で限定公開中です。評論家の評価がとても高いので、直ぐに全国規模に拡大公開されるかとも思ったのですが、英国での公開が来年とのことで、今のうちに観ておかないと散々待たされて後悔するかも…と、慌てて西LAのLandmark Theaterに行ってきました。引越し前は徒歩圏内だったこの劇場ですが、フカフカの革張り椅子、傾斜が十分にあって前に人の頭が邪魔にならない構造、明るい画面、飲み物食べ物持ち込み自由で、隣の本屋さん内のスタバでコーヒー買って持ち込めるとこ等々、やっぱ、いい劇場だわぁ…

 原作本「Never Let Me Go」は2005年刊、「わたしを離さないで」という邦題で、日本語訳も出ています。翻訳版は立ち読みしただけですが、原作の淡々とした上品な語り口が上手く伝わり、しかも滑らかな分文章で、とても良い訳だと思いました。原語の英語版も、語り口調の文章のせいか、すっきりとして語彙も難しくないので読み易いのですが。機会があれば(図書館にあるか、Book Offで安くなってたらw)、ぜひ日本語翻訳版も読んでみたいと思います。

 同タイトルの映画は、最近の無駄に上映時間が長い風潮では珍しく、二時間以下にまとめられています。原作中の多くのエピソードが省かれ、鍵となる幾つかの大事なニュアンスやエピソードが削られていますが、それが悲劇を際立たせ、観る者に更に強烈に哲学的な問を投げかけているように思いました。ぶっちゃけて言えば、一人の男性を巡る三角関係の話で、その背後にある設定が特殊です。その特殊な設定は、作中で少しずつ明らかになっていくのですが、だからといっても、謎解きやミステリーでもありません。秘密は呆気なく、さらりと明かされ、終り近くに全てが解き明かされてもカタルシスはなく、読み手もストーリーの流れに沿って淡々と物語を追っていくだけ。お話は急流、そして滝壺に向かって急降下なのに、なぜか緩やかな流れに身を任せているような、ゆったりした気持ちのままに読み進めてしまうのは、イシグロの筆力でしょう。でも、ゆっくりと暮れていく黄昏のような気持ちは、読み終わって、一息ついた途端に暗転します。とても後を引く作品です。映画は、後を引くという点では、原作以上かも…

 追記に、原作と映画の違いを含めての、映画の感想を書きます。先に書いた「特殊な設定」についてのネタバレなので、これから読もうと思われている方はご注意下さい。これを知ったからと、この作品の面白さは全く削がれないと思いますが、一応、折り畳にしておきます。で、延々と長いです…orz

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原語版は出版国によって数バージョンありますが、これは私の持ってるアメリカ版


 私は原作を読んでから映画を見ましたが、出来れば映画鑑賞後に読んだ方が、より楽しめるのではないかしら。主人公たちが何者なのか、「ポシブル」とは何かの説明が、映画は少し不親切に感じましたが、そんな疑問も後から原作で明白になり、少し異なる設定や、細かなエピソードを楽しむのもいいかもしれません。

 キャシーとルースを演じるキャリー・マリガンとキーラ・ナイトレイは、演技力に定評がありますが、トミー役のアンドリュー・ガーフィールドも、全く遜色なく、繊細で癇気なトミーを好演していました。そして、この3人を演じる子役も、上手いけどあざとさが感じられず、自然で好感が持てます。で、女の子二人が、マリガンとナイトレイにそっくりなのも驚き。これだけ似てて、しかも上手い子役、よく見つけたなぁ、って、感心しちゃった。

 決して派手でも、画面作りが凄いって映画でもないけど、劇場でじっくりと、その世界観にどっぷり浸って見る価値ありでした。後を引く、と書きましたが、観終わって主人公たちの宿命に思いを巡らせ、落ち込むのではなく、一生懸命生きなくちゃ、と、思わせてくれましたし、わざわざ高速走って渋滞と闘って、観に行った甲斐がありました。9ドル50セント(チケット代)に悔いなし!
 
励みの二押し、有難うございます。
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  1. 2010/09/21(火) 23:22:13|
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